村川拓也『ムーンライト』@京都市西文化会館ウエスティ ホール

上桂駅から楽器を持ったひとたちがぞろぞろと進む先はなんとなく自分の目的地とは違う気がして一度は立ち止まり地図を確認するもなぜだかグーグルマップが信じられず再び皆と同じ道を行く。しばらくして、これは明らかに違う道だ、だから自分だけは次の通りを左折するんだ、と強く決意したはずが、前を歩いていた演劇関係者、のようになぜかその時は見えた二人組の後を追い、渡らなくても良い横断歩道を渡ってしまう。二人組はそのあと小さなビルにすっと消えた。

KKさんもほぼ同じ体験をしたそうで、人間の心理って不思議だなあなんて。

ある一人の男性がベートーヴェンピアノソナタ第14番を演奏するに至るまでに辿ってきた時間の断片が、額縁をつけて無理矢理立体的にした一枚の写真のように次々と提示されていく。それが村川氏の新作だった。

いまここに、記憶が記録されていく。静かに、ただ静かに、観客たちはそれを見守る。自分とは何の関わりもない人間の人生を追体験することで、自分を中心として回っていたはずの世界の軸がぶれる。自分とは何の関わりもない人間なんて幽霊のようなものなのに。

作り話だと疑うことはできるし実話だと信じることもできる。だから作品に対して観客はどこまでも自由だ、なんてことはなく、けっこう不自由なんだな、と今日はおもった。

久しぶりにTMーさんに、ばったりKMさんに会えたのも嬉しかったなあ。

KKさんからは演劇の話を聞き、自分は音楽の話をとつとつと。この人は、と思う人のことはどこまでも応援したい。