France_pan『あ  りきたりな生活』@アトリエ劇研
作・構成・演出:伊藤拓
部屋の隅からぞろぞろと出てきた俳優らがわれわれ観客の目の前に立ち、様々な質問を投げ掛けてくる。名前、生年月日、最近手紙は書いたか、等。偽名を使うつもりでいたのだけど、名前を尋ねられたのはわたしの隣のひとまでだった。私は手紙は書いていないと嘘を言い、自分のことをどう思うか、という質問には、ふつう、と答えた。すると、ふつうがいちばんですね、と言われた。
質問タイムが終わるとそれまでへらへらしていた役者たちは急に真顔になり各々の演技をはじめる。もっとも、質問タイムが演技でないとは誰も言ってないのだけど。その後は伊藤拓やその影武者のような人物が役者に指示を出し、役者が舞台を出たり入ったり、歌を歌ったり、何かしらの動きをする。ありきたりとは何か、という問いかけが作品の根底にあるらしいのだけど、結局わたしにはその答えはわからず終いだった。何かの象徴のような、誰でもない、また誰でもあるような、幽霊のような女の子はなんだったのか、とか、なんできらきら星なのか、とか、考えるほどのことではないような気がする。記憶を薄いとか濃いとかいうふうに捉えたことがないのでいまひとつぴんとこなかった。薄い記憶ってなに、濃い記憶ってなに。にしても初対面のひとに知らないひとたちの前で質問されるのは決して気持ちの良いものではない。近くに座っていたひとたちはほとんどが隣に知人がいるという安心感からか真面目に質問に答えていたけれど、ひとつ見方を変えれば自分以外の全てが演技にみえる、また自分が真実、嘘関係なく発言したことすべてが演技になってしまう、舞台という恐るべき空間で、わたしはただただ居心地の悪さを感じていた。