はじめて降りる向ヶ丘遊園からてくてく目指すは生田緑地に聳える岡本太郎美術館岡本太郎が好きでよく話を聞かせて貰っていたNさんのことを思い出しつつ(久しぶりに連絡してみようか)太郎の赤と薄暗い明かりに装飾された佐内正史の赤を視てまわる。企画展の「対照」では700点の大小様々な写真が長い4本の机に所狭しとずらり並べられ、そのどれもを手にとって眺めることができた。写真集ではきっと味わえない、あの身体に入ってくるかんじ。初体験。写真を視る、つまり体験するってこういうことかもしれないし、ちがうかもしれない、とあれこれ考えていたときにふっと目に飛び込んできた見慣れた風景がうれしかった。河原町三条の交差点に『武士の一分』の看板が掲げられていたのはもう何年前のことだろう。
すっかり満足して美術館をあとにし、次の目的地である岩波ホールを目指す。途中、買い物帰りらしい女子が自転車の後輪にとまったカラスを追い払おうと孤独な闘いを続けている現場に遭遇にするも、時間に余裕がなく助けられず(カラスはクロちゃんで経験済!)。
しかしぎりぎり神保町に到着し、いざホールに入ろうとすると立て看板に「売切れ」の文字・・。アンジェイ・ワイダの新作『カティンの森』が見たかったのだけど、まさか平日の昼間の回が売切れるなんて・・・と予定がくるい途方に暮れながらいくつかの選択肢を挙げ悩んだ末、シネマヴェーラで開催されていた「山城新伍とその時代」で山口和彦怪猫トルコ風呂』を見ることに。こちらも満席とまではいかないけど結構ひとが入っていておどろいた。ポルノ版『黒猫』!室田日出男(?)のいやらしい目つきがイッちゃっててやばい。最後に耳をもぎとられて目をつぶされちゃうのはちょっとかわいそうだった、ことはない、ざまーみろ!山城新伍はちょい役だけどとってもキュートでわたしの知っているその人とはぜんぜん違った。
夜は公園通りクラシックスでトリオ・カンディンスキーの来日公園、やや、公演。どうでもいいけどここのアイス珈琲は珈琲飴の味がしておいしい。鈴木さんの曲『Transverse Line』(タイトルは画家のカンディンスキーの作品から取られているらしい)は、「対照的なテクスチュアが比率をシステマティックに変化させながら立ち現れるというスタティックな構成はドナルド・ジャッドからの影響だろう」とプログラムノートにはある。曲を貫く絶対的な何かが鈴木さんの曲にはいつもあって、良い音楽というものは人にどう受けとめられるかというのとは全く関係のないところで存在することを教えてくれる。
終演が21時だったので、イメージフォーラム伊藤高志回顧展は諦めてそそくさと東京駅へ向かう。パンをかじり、iPodに入っているいつものくるりを聴きながら、大きな荷物を抱えた他の旅行客らから少し離れた場所で自分のバスを待つ。